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人間の育つ環境とは?

2024.06.07







乳幼児の心身の発達は目覚ましいほどに速く、見事な順序性を持っています。しかし他の動物からすればとてもゆっくりとしており、外敵や危険から身を護ることも、大人にほとんどの力を借りなければ生きていくことすらできません。過去に何度もこの点(生理的早産)には触れていますが、人間には眼もしっかり見えない未熟な状態で生まれる理由があります。人間に比較的近いゴリラは、一頭の子どもを産むと人間のように子どもが未熟なうちに続けて出産することはありません。人間は多産、二足歩行、大きな脳を発達させ、他の生き物にない力を得ました。この生き方、種族の保持にはたくさんの知恵と協力が必要です。にんげんが「人間(ひとのあいだ)」と表現されるゆえんです。

脳と身体を発達させるため、幼さは大変な興味と好奇心にあふれているのです。そのことは一つ一つの物質や自然に、丁寧かつ必用に働きかける今日のような様子を視ることで良く分かります。「自らが手にしているシロツメクサがいったいなんであるのかが分からない、なんとなく指先に伝わる感触を指を動かすことでつかみとり、掌から零れ落ちていく様子を眼で知る」、「空の容器は手で触れると難なく高いところから転げ落ちる」、「しっかりとした形の手押し車は、少々全体重をかけてもタイヤに垂直な力には簡単には動じない」、等の法則も身体で覚えていきます。

しかし先にもお伝えしたように、未熟であることは多くの人々の手助けが必要になります。大人が安全や健康を確保することは最低限の「命の保障」ですが、親、保育者(大人)、物、自分の三つの関係性(専門用語では三項関係と言います)を作っていくことは、大人との愛着(信頼)関係を作っていくうえでも欠かすことのできない発達です。もうしばらくすると指差しをしながら大人に同意を求める時期がやってきます。また抱っこやおんぶ、ほおずり、手をつなぐなどのスキンシップもオキシトシンというホルモンが子ども大人双方から体に生まれ出ることで、「育とう」、「育てよう」という力を発揮していきます。

上のことからも子どもはたくさんの大人に育ててもらうことが大切です。かわいがられ、見守られ、話しかけられ、抱っこされ、手をつなぎあうことで、「人間が信頼に足る存在=信じられる存在」、「自分も信頼できる存在」であることを理屈なく知っていきます。幼い時にこの環境が不十分に育つと、不安が多く自信のない大人になってしまいます。親子関係、地域関係、仲間関係は任せきりではいけません。当事者として苦楽を共にしていく過程があってこそ、人間という高度に進化した生き物の世界は保っていくことができるのです。

少子化は「なるべくして なっている」と感じます。家庭、地域、保育施設、学校等教育機関、行政、メディアは、お互いが責任を擦り付け合うのではなく、他者を受け入れ、自省し、手を取り合って生きていく心構えを再認識しなければなりません。児童手当が増額し、いつでもだれでも保育が可能となることは、子育てを行う上で楽になるかもしれません。しかし根本的解決になるかどうかはどうしても疑問がぬぐえません。子育てが苦手でも助けあえる関係性、子どもを育てることの喜びと責任など、今を置いて子育ての方向性と方法を考えなければならないときはないと考えています。

カテゴリ:生き物・自然・人間

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